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「そ、その……情報担当って、何を…?」
「そうね、この船に必要そうな情報の収集、かしらね。一応言っておくと今仕事中なの。」
「えっ…?」
セレヴィの一言はあまりにも意外だった。あまりしつこくするとかえって邪魔をして印象を悪くするだろうか。いや、問題なのはそこではなくて。
「仕事中、って言ったって、君……」
「まあそれが普通の反応よ。でもね、あたしの相手はこの子たちなの。」
この子、といって指したのは船の周りを飛ぶ鴎たち。まさか鳥の言葉がわかるとでも?と訊くと、セレヴィはその通りだと得意げな表情を見せる。
「あたしの特技なの。鳥って意外と物知りなのよ。特に世界中を飛び回る海鳥や渡り鳥なんかはね。近くにある町や他の船の位置、何よりも危険を感じるとすぐに教えてくれるのよ。」
にわかには信じがたい話だ。しかし、得意げに語る彼女の顔は自信に満ちているし、実際のところは本人でなければわからないだろう。鳥たちの話をする彼女には先程のような棘は感じられない。つまりそういうことなのだろう。
「それじゃ、あたしはこれから船長に報告に行かないとだから。またね。」
「ああ、うん。また……」
彼女が去っていった後、ヴェルナは大きくため息をついた。
(き、緊張した……!)
自分の鼓動の音が喧しい。潮風がいつも以上に冷たく感じる。女の子と話すというのはこんなにも緊張することだっただろうか。
情けないことに脚の震えも止まらない。ヴェルナは近くの壁に寄りかかり、大きく深呼吸した。
高鳴る心臓とは裏腹に、海はいたって穏やかだ。心地よい波の音が心を鎮めてくれる。
「――ッ!?」
その波の音に一瞬何かが――
いや、気のせいかも知れない。ヴェルナは再び耳をすませる。
「――誰?」
波がヴェルナの心を表すようにざわつき始めた。
そしてそれに混じるように、今度ははっきりと。
『目覚めよ……海の記憶を宿す少年……』
「この間の夢の――?痛ッ!!」
声と共に激しい頭痛がヴェルナを襲った。
『――に選ばれし者……その記憶を……』
(選ばれし者…?それに、海の記憶って――)
頭が割れそうに痛い。何かが身体の奥から弾き出そうだ。
その場で蹲り、なんとかやり過ごす。ざわついていた波が静まると同時に激しかった頭痛が嘘のように引いた。
(何だったんだ、今の…)
自分の身に何が起きたのかわからないまま、ヴェルナは残った仕事を片付けに立った。
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