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もちろん子分などというのは嘘だ。どこからかあの現場を目撃していたのだろう。
「なるほどな、じゃあ親分が責任取ってくれるってことだなッ!?」
細身な青年より1、2回り大きいかという荒くれが殴りかかってきた。青年はそれを軽く避けると、そのまま激しい蹴りを叩き込んだ。
「なろっ、ふざけやがって!」
もう一人が向かってきたが、やはり同じような目にあった。強い。残る2、3人もその実力にたじろいだ。
「俺、一応民間人には手ェ出すの嫌いだから、これぐらいにしとこうぜ、な?」
そう言って彼は懐から何かを取り出すとそれに火を点けて投げた。空中に放たれたそれはパチパチと爆ぜて荒くれ達を襲った。
「な、なんだこれ、ちょっ!?」
「ば、爆竹…!?」
「よし、今のうちに逃げるぞ!」
そうしてヴェルナは青年に連れられて町はずれの港まできた。
「助けてくれてありがとうございます。あの…あなたは、レイヴ=ヴィスタールさん…ですよね?」
<爆師>(ボマー)レイヴ。
彼の戦い方はその海賊の名を思わせた。安心したところで尋ねてみた。
「なんだ、バレてたか。どうする?俺を突き出すかい?さっきも言ったように、民間人に手ェ出すのは嫌いなんだが、場合によっちゃ容赦しないぜ?」
「まさか。俺は貴方について行きたいです!」
「…は?」
「俺も船に乗せてください!お願いします!」
きょとんとした様子のレイヴに、ヴェルナはどさくさ紛れに思いをぶつけていた。目の前に現れた本物の海賊を相手に、自身の夢と思いを吐き出す。
しかし、彼はヴェルナに背を向け、こう言った。
「悪いが、こっちも遊びじゃねぇんだ。さっきはたまたま俺がいたからよかったが、一人だったらどうしてた?」
「それは――」
「そういうことだ。テメェの身も守れないようでやっていける世界じゃないんだ。」
レイヴの言う通りだ。もし彼がいなかったら今自分がどうなっていたか想像もできない。そんな有り様で海賊になりたいなんて、出過ぎた真似にも程がある。しかしヴェルナは諦めなかった。歩き出すレイヴを遮り、頭を下げる。
「この通りっす!!今は確かに弱いし、何の役にも立たないかも知れないです。けど、必ず、…必ずお役に立ちます!この恩を返したいんです!」
レイヴは再び歩き出す。そして振り返り、こう言った。
「……おもしれぇ。着いてきな。」
「じゃあ……」
「いいか、使えねぇと思ったら容赦なくその辺に捨ててくからな?」
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