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「いつか海に出てみたいとは思ってたんです。港町で育ったせいもあるかも知れないですけど、なんていうか……ずっと憧れみたいなのがあって。」
「へぇ…、殊勝な心がけだねぇ。」
「そうですかね…?確かに下手すれば海の方が治安が悪いなんて言われる時世ですけど、昔から海に呼ばれてるような気がして……なんて、変ですよね。」
ふっとシルバの表情が変わった。何か考え込むような仕草にヴェルナが問いかける。
「…どうかしました?」
「いや、なんでもない。……よければその話、少し聞かせてもらえる?」
「えっ、いいですけど…」
まさかそこに食いついてくるとは思わなかった。それほど重要なこととは思っていなかったので困惑しつつも話を続ける。
「誰かに呼ばれてる気がするんです。昨日も変な夢を見て……」
「夢?」
「誰かが俺を呼んでるんです。それから…『目覚めよ』って。」
「なるほどねぇ……わかった。面白い話をありがとね。」
何やら考え込んだ後、いい笑顔を見せる。まるで何かを確信したように。
「…どうしてこんな話を?っていうか、信じるんですか?」
「んー、なんでだろうね。平たくいえば興味があるから、かな。ま、変な話したけど、これからよろしく頼むよ。何かあれば頼ってくれていいし。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
シルバは何やら満足げに立ち上がり――何か閃いたようにすぐに席に戻った。
「でさ、正直どうよ?」
「は?」
先程とは違う、かなり砕けた口調で突然また続けた。
「暇、なんでしょ?友達はできたみたいだけど。」
悪戯を思い付いた子どものように目を輝かせてまくし立ててきた。
「ええ……、まあ……。というか、何をしていればいいのかわからないというか……」
「なるほどねぇ……。そんな君にいい暇つぶしがあるんだけど、どうだい?」
それからというもの――
(は、謀られた……!?)
船内の掃除だけは完璧に覚えた。炊事は担当している班がいるようだから回ってはこなかったが、洗濯もある程度慣れた。
というか、叩き込んだ。
暇つぶし、とは要するに雑用全般だった。
(『ドンマイ』って、まさかこのこと…?あの話はどうでもよくて、これが狙いだったとか……!?)
その真偽が明らかになるのはもう少し先の話になる。何も知らないヴェルナはすっかり雑用係の地位に収まっていた。
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