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船と肩を並べて飛ぶ鴎達の群れが今日は妙に騒がしい。しかし、今日も今日とて穏やかで青い空と海。鴎達の様子も騒がしいとは言っても悪い予感を感じさせる雰囲気ではない。
穏やかでないのはヴェルナの心境ぐらいだ。あの副船長からの呼び出しから1週間ほどになるが、まさかルームメイトにまで雑用を押し付けられるとは思っていなかったのだから。とはいえ、掃除のためではあるが甲板に出て見るこの景色がヴェルナは好きだった。
それにしても鴎達が騒がしい。掃除で甲板を回るついでに、鴎達の群がる一角を覗いてみた。
その中心にいたのは桃色に近い赤毛の少女だった。大幅に露出させた身体のラインはか細いと言っていいほどだが、左目の周りに施された大きな刺青がその体格ながら弱々しさを打ち消していた。
まるで言葉を交わしているように鴎達と戯れる少女の姿に、ヴェルナはいつしか見とれていた。
「そこのあんた、何?覗き魔?」
そんなヴェルナの意識を引き戻したのは少々棘の生えた少女の言葉。
「えっ?……っや!これは、覗きとかそういうのじゃなくて……」
そして冷静になって状況を考える。少女の言葉ももっともだ。しかし狼狽しか出てこない。
「ふーん……。あ、わかった、あんた例の雑用係ね。こんなところまでご苦労さん。」
少女はそんなヴェルナを一瞥するとばっさりと言い切った。返す言葉は見つからない。
綺麗な薔薇には棘がある。まさにこういうことかも知れない。
「話には聞いてたけど、こうやって顔を合わせるのは初めてよね。あたしはセレヴィ=ヴェルセス。<黒い翼>の情報担当をしてるの。よろしくね、雑用係くん。」
「あ、ああ、よろしく…。それと、俺の名前、ヴェルナっていうんで……」
「あら、失礼。ヴェルナね?覚えた。うん。」
本人にそのつもりがあるのかどうかはわからないが、同じ年頃の少女に見下されている気がしてヴェルナの心に若干ヒビが入る。まあ、そもそもこちらの覗き魔まがいの行動から始まったのだから多少は仕方ないのかも知れない。とにかく、彼女の中で自分の心象は最悪のはずだ。なんとか距離を縮めて印象を挽回しようと必死で話の種を探す。
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