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フィルターぎりぎりまで吸った煙草を投げ捨てると、辺りはもとの暗闇に戻った。
大深度地下に埋設された、地下鉄の線路――
湿った空気が、全身にまとわりつく。
見えるものなど何一つない。
感じるのは、コンクリの放つ冷気。
そして微かな気流の動きと、遠く魔獣がうなっているような風の音のみ――
レールの上に両足を乗せた男――
「無食(ムジキ) 拓(タク)」は、軽く深呼吸をするように両手を広げた。
「――来る」
低く、呟く。
その言葉に呼応するかのように、遠く、魔獣のうなり声が強まった。
止まることを知らず、それはどんどんと近づいてくる。
徐々に強く、鼓膜を震わす重低音から、地下線路全体を揺るがす轟音へ……
やがて、緩くカーブした線路の向こうから、二つの光輪が姿を現した。
闇の中を、巨大な魔獣の光る目が貫く。
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