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二人がふと気がついた時、辺りはすっかり茜色に染まっていた。
立花少佐は正直疲れている。
年寄りの長話とはよく言ったもので、まさか一式翁の話がここまで長くなるとは思わなかったのだ。
しかも一式翁は、陸攻という名前の由来もテレンクレンという言葉のの意味も、まだ立花少佐に話してはいないのである。
(くぅ…このままでは任務に支障が出るでありますっ。
しかし…
少尉は帝国海軍の生き証人でありますからなぁ…)
立花少佐の悩み所はまさにここなのだ。
第二次世界大戦の記憶が続々と風化してゆく今、あの激戦を最前線で戦い生き残った者から生の証言を聞ける機会など、望んだ処でそうそうあるものではない。
しかし、彼女は軍人である。
如何にめったにない機会といえども、私情で任務を蔑ろにするような事自体が許せないのだ。
一方一式翁は、年の功からか立花少佐にそれとなく助け舟を出すのであった。伊達に百年近く生きてはいない。
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