16人が本棚に入れています
本棚に追加
「何があった?」
「……あのね、お父さんと一緒に、あれと似たような穴が他にもないか探索してたの。……そ、それで……お父さんがふらっとしたと思ったら、そのまま倒れて……」
あたふたしている彼女に、しっかりするよう呼び掛ける。周囲を見渡すが、人の気配は無く、耳障りな蟲の合唱だけが響いていた。
「……ひとまず日陰へっ!」
このままではマズイと、ぐったりする教授を、二人で学舎の中へ運び込んだ。
ちょうど出会(でくわ)した通りすがりの人に救急車を頼み、少しずつ水分補給をさせながら、電話口からの指示通りの応急処置を行う。
「遥、教授のリュックの中に、冷やせそうな物は入ってないか?」
「あ、えっ……い、今調べるっ!」
瞬間冷却剤を見事取り出すも、彼女は慌てふためいていて、その手は、小刻みに震えていた。
「とりあえず落ち着いた方がいい」
「う、うんっ……」
俺はそれをタオルで巻いて、教授の首元にあてがった。
「……これも使える?」
遥の手には、「クエン酸」とラベルが貼られたビン。
これではまるで、こうなる事が予想出来ていたかのようなラインナップだ。
だが、おかげで早急な処置ができた事に変わりはない。
改めて、このリュックのありがたさを実感した瞬間でもあった。
最初のコメントを投稿しよう!