第零話

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――― ―― ― 「トレンディア! やっぱりここにいたのか!」  明るい声に名前を呼ばれて、瞳を開けるとそこにはいつもの彼女の姿があった。いつもの光景。白い光に包まれた暖かな世界。ここに戻ってきて数年が過ぎた。  たまに思い出すのは、あの世界での出来事。下界での、幸せな時間。 『カイ』  耳を掠める幻聴に首を横に振った。彼女はもういないのだと。 「トレンディア、その……レミエラ様が呼んでたぞ。次の聖女の護衛を、お前に頼みたいらしい」  次の聖女。そうか、もうそんな時期なのか――。そう思いながら、私は立ち上がった。 「どうせ、レミエラは私に厄介事を押し付けるつもりでしょうねぇ」  そう言い、笑顔を見せながら伸びをするように自分の翼を広げる。天使の象徴。蒼銀の翼。  冷たい風が自分の周りで巻き起こり、蒼い髪を揺らした。 「わ、私も行く! 人間界に行くんだろ!? 私はお前の守護妖精だからな!」  そう言って私の周りを飛び回る緑の光を纏う妖精に、私は苦笑を返した。 「わかりましたよ、ベルベーヌ君」
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