第一話

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 宙に投げ出される感覚と、抱き留められる感覚が体に伝わる。 「きゃ、きゃああああっ! な、何!?」  僕を抱き留めた――いや、違う。運悪くそこにいた彼女は、僕を支えきれずに仰向けに地面に倒れる。当然、彼女に支えられていた僕も一緒に俯せに倒れてしまった。  青く茂る草の匂いと、太陽の暖かな日差し。僕は今、生きている――。 「ちょ、ちょっと、いい加減どいて……」  僕はその言葉通り、彼女から離れた。赤い長い髪に、青に輝く瞳を持った少女。柔らかい、白い布を纏っていた。 「メイス、どうしました? 魔力が乱れていますよ」 「あ、アーリィ! 魔力も乱れるわよ! い、いっ、いきなり大樹から人が――」  彼女の後ろから現れたのは、少女と同じく赤い短い髪に白を基調とした服を着た男の人、だと思う。瞳は綺麗な青色だった。 「大樹から? ……。君。どうやってこの地に? 結界を突破してこれるほどの魔力は無いようですが――」  魔力。聞き覚えがない単語。そもそも、僕は誰だ? 名前は? 生まれた場所は? そもそもここは、どこなんだろう。  アーリィと呼ばれた男の人は、ため息をついてから「メイス。魔力を乱せばこの村の結界が弱まります。気をつけてください。貴方はこちらへ。話は村で聞きます。ここにいても邪魔になりますから」そう言って、彼は僕の腕を無理矢理引いて歩き出した。
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