290人が本棚に入れています
本棚に追加
/57ページ
穏やかな陽射しが差し込む、教室の窓際。
その一番後ろの席に座っているのは私の弟、中君だ。
ぼんやりと窓の外を眺めている様子を見ると、こっちまで落ち着いて来る。
中君は学校でほとんど他の人と喋ったりしない。
どちらかと言えば、元から中君は大人しいタイプの子だった。
でもそれが小六の『あの事件』からより顕著になった気がする。
中学校に入学して一ヶ月、私は中君が誰かと談笑したり、ふざけ合ったりする姿を見ていない。
いや、中君だけじゃない。
『あの事件』以来、下ちゃんはどうにも不登校気味だし、私だって学校に来るのは憂鬱だった。
だけど幼なじみの向ちゃんが叱咤してくれて、私はどうにか以前の生活を取り戻せそうになっていた。
でもそれもしょうがない事だ。
それだけ『あの事件』は、私達三つ子にとって衝撃が大き過ぎたんだと思う。
中君があんな風に他人との交際を断ってしまう気持ちも分かる気がする。
むしろ、そうやって他人を傷付けまいとする考えは立派だと思う。
「中君?」
私は放課後の暖かい日だまりに浮かんで見える中君に声を掛けた。
久し振りに一緒に下校しようと、不意に思い立ったからだ。
「……何?」
穏やかな表情をしながら、徐に顔をこちらに向ける中君。
その壊れそうな笑顔を思わず抱きしめたくなったけど、グッと我慢して話を続ける。
「今日さ、一緒に帰らない?」
「……それって、上姉ェと?」
「うん、あと向ちゃんと、他にも何人かいるかな」
「……じゃあ、いいや」
中君はそれだけ言うと、また窓の外へ視線を戻した。
こうなったら、私も無理に誘おうとはしない。
しばらくしたら向ちゃんと数人の女子が来たので、私達は帰る事にした。
私は『お先に』って言ったけど、中君は手をひらひら振っただけだった。
最初のコメントを投稿しよう!