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「アンタ知らないの?休み時間に上級生の女子が、わざわざ中を見にウチの教室に来てるのよ」
「そんなに……」
確かに休み時間、何人かの先輩が教室を覗いてたけど、中君が目当てだなんて初耳だ。
流石は中君と言うか何と言うか、何をしてもサマになるなんて羨ましいよ。
しかしそれって良い事の気がするけど……どうして向ちゃんはこんな深刻な顔をしてるんだろ?
他の女子に中君を取られるのがイヤなのかな?
私の疑問は、向ちゃんの次の言葉で晴れる事になった。
「でもね、そのせいで中がちょっと目を付けられたらしくって……」
「目を付けられた?」
「そう、それもちょっと『厄介なヤツ』に……」
向ちゃんが顔をしかめて、いかにも忌ま忌ましそうに言った。
向ちゃんのこの表情を見て、私にもその『厄介なヤツ』に見当が付いた。
ウチの学校には所謂、ヤンキーと言う者が一部に存在する。
私達のクラスには幸いそのような類の人間はいなかったが、上級生には十数人いるらしい。
そして向ちゃんの言う『厄介なヤツ』とは、そのトップに立つ生徒の事だろう。
私はチラッと見掛けた事があるが、その人は中三とは思えない程ガタイが良く、いかにも悪ぶっているオーラが出ていた。
普段は学校をサボって遊んでいるらしいが、たまに気晴らしに登校して来るそうな。
ソイツが学校に来た日はもう悪夢。
カツアゲ、暴力、授業妨害等々、先生も危険で手が付けられないんだとか。
既に暴力団からスカウトされている、なんて噂もあったりする。
中君がソイツに目を付けられたなんて、恐ろしくて考えたくも無い。
もし大切な中君に何かあったら……。
「向ちゃん、その話詳しく!!」
思わず、向ちゃんの肩を掴んで揺さ振る。
『何するのよッ!!』って本気で怒られて、私は慌てて手を離した。
「ご、ごめん」
「痛かったじゃないの!!もう……でもまぁ、アンタが焦るのも仕方ないわね」
溜め息を一つついてから、向ちゃんは事の事情を説明してくれた。
中君がソイツに目を付けられた理由、それは実に単純な事だった。
急にモテ始めた中君が、生意気なんだって。
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