290人が本棚に入れています
本棚に追加
そのまま向ちゃんはキーキー言い続けていたけど、半ば強引に別れて私は家に入った。
『ただいま』とは言ってみるが、誰も返事は返さない。
お母さんは働きに行っているし、下ちゃんは自室に閉じ篭っているのだろう。
だけど今日は違った。
廊下で、トイレに行く途中の下ちゃんとバッタリ会ったのだ。
「あっ、下ちゃん……」
予想外の遭遇に、私からはそんな言葉しか出ない。
下ちゃんも下ちゃんで、私を一瞥しただけで何も言わず足早にトイレに入ってしまった。
いつまでこんな生活が続くのだろう。
早く昔みたいに、皆が笑顔で、皆が明るかった家族に戻りたい。
どうして家族間でギスギスしなきゃいけないんだろう……どうして……。
気が付くと、私はリビングのソファーに突っ伏して泣いていた。
泣いてどうにかなる問題じゃないのは分かってるけど、でもどうしても我慢出来なかった。
「ただいま~」
玄関からお母さんの声が聞こえて来た……パートが終わって帰って来たんだろう。
お母さんに心配を掛けたくない、泣き止まなきゃ。
そうは思っても、涙は止まってくれなかった。
「あら上ちゃ……どうしたの?」
ソファーに突っ伏す私を見られてしまった。
お母さんが近寄る気配がしたので、そっちの方に顔を上げる。
瞬間、お母さんの表情が強張るのが分かった。
多分今の私が、ぐじゅぐじゅに泣き濡れたひどい顔をしているんだろう。
「大丈夫?何かあったの?」
お母さんが私の両肩に手を置きながら、身体のあちこちをケガが無いか確認する。
私はどこにもケガはしてないんだけど……身体はね。
「中学校で何かあった?」
そうお母さんが聞いて来たけど、泣いている私は思うように喋れない。
だから答える代わりに首を横に振った。
「じゃあどうして泣いてるの?お母さんに言ってごらん?」
優しい声で、諭すように話すお母さん。
私はつい甘えたくなったのか、再び涙が堰を切ったように目から溢れ出て来た。
それと同時に、震える涙声である単語が私の口から出た。
「……お゙、お母さん?」
「なぁに?」
「私、ね……寂しいよ……」
最初のコメントを投稿しよう!