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私がそう言うと、お母さんはそっと私の身体を抱きしめた。
ふんわりと優しい香りが鼻をくすぐる。
私はお母さんの首筋にすがって、また泣いた。
「ごめんね、お母さんが寂しい思いをさせたね……」
お母さんは私の髪を撫でながら謝るけど……。
違う、お母さんは何も悪くない。
お母さんだけじゃない、誰が悪いだなんて言い切れない。
強いて言うなら……『あの事件』の時に私達を責めた周囲のヤツらだ。
でも過去を振り返ってばかりいてもしょうがない。
だから私はなるべく気丈に、明るく振る舞うように心掛けている。
けど、時々こうやって泣きたくてどうしようも無い時がある。
そういう時は部屋で一人で泣いてるんだけど……今日は初めて泣き顔を他の人に見られた。
それがお母さんで良かったけど。
「……ふぅ、落ち着いた」
ひとしきり泣いた後、私はそう言ってお母さんから離れた。
お母さんはまだ心配そうな顔をしたけど、私は精一杯のイイ笑顔を作った。
「泣いたらスッキリした。もう大丈夫」
「本当に?お母さんがパートの時間をもっと早い時間に変えてもらって……」
「良いよ、お母さんのお店にまで迷惑掛けられないよ」
お母さんは働いているスーパーのシフトをある程度好き勝手出来るらしい。
ただのパートなのに。
だけど、私のためにお母さんが自由に仕事出来なくなるのは申し訳ないから、流石にそれは断った。
それから『部屋で着替えて来る』とだけ言って、駆け足でリビングを出た。
私はいつまで自分にも周りにも、ウソをつき続けなきゃいけないんだろう。
着替えてまたリビングに降りて来ると、既に中君が学校から帰っていた。
制服のままテレビを観ていた中君がこっちを振り向き、視線がかち合う。
『中がちょっと目を付けられてるらしくって……』
不意に、さっき向ちゃんに聞いた話が頭をよぎる。
まさかそんな事あって欲しくない、と思いながらも、中君の身体に異常が無いかつい確認してしまう。
そして、私は見付けてしまった。
中君のズボンの尻の部分に、何やら蹴られたような跡があるのを。
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