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「中君、ズボン汚れてるよ」
顔はあくまでも平静を装い、中君のズボンの汚れを払う。
私が汚れに言及した瞬間、中君が僅かに目を泳がせた。
……多分、向ちゃんが言っていた事は合っている。
恐らく中君は不良のヤツらに何かされている。
私はリビングにお母さんがいない事を確認すると、小声で問い質してみた。
「中君、この頃帰るのが遅いけど……学校で何をしてるの?」
「何って、別に」
明らかに歯切れの悪い返答。
予想が確信に変わった。
思い切って問題の核心に切り込んでみる。
「中君、学校で嫌な目にあってるんじゃない?」
「……」
「私に全部話して良いんだよ。黙ってたら何も解決しないんだから」
そうだ、黙っていても何も進展しない。
私達は『あの事件』でそれを痛いほど実感したじゃないか。
特に一番辛い思いをしただろう中君には、これ以上の苦労をさせたくは無かった。
私が中君を守る。
姉として、家族として。
「ねぇ中君、正直に話して。学校で不良に何かされてるんじゃない?」
「……」
黙ったままの中君。
でもここで問題を放っておく訳にはいかない。
中君が助けを求めなければ、私達は何も手を出せない。
だから中君には、今起こってる事をありのまま教えて欲しいのだ。
「お願い中君、今のままだと自分が苦しいだけだよ。私は中君を助けたいの」
中君が拳を握り締めて小刻みに震え出した。
ついに話してくれる決心を付けてくれたんだ……。
「…………ょ」
「何?もう少し大きな声で……」
「上姉ェには関係無いだろ!?口を出すんじゃねぇよ!!」
いつも大人しい中君からは、想像出来ない怒鳴り声。
私がたじろいでいると、中君は『お節介なんだよ……』とだけ言って、リビングから出て行った。
激しくドアを閉めた音が、家中に鳴り響く。
「上ちゃん!?今のはなに!?」
中君の声とドアの音を聞き付けたお母さんが慌ててやって来た。
だけど……。
「分からない……分からないよ……」
私はまた泣く事しか出来なかった。
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