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「茜ちゃん。さっき『きん斗雲は孫悟空の乗り物で、ひと飛び十万八千里』と言ったね?」
茜は素早く右手を上げ。
「言いました!」
「実はそれ……正解だけど不正解なんだ」
「ええっ? 不正解っ? とゆーか正解だけど不正解って意味がわからないのですが?」
キースは尚もゆっくりと歩みを進め。
「あっはっはっ。まぁそうだよね……正確に言えば――部分的には合ってるけど、部分的には間違ってる……ってところかな?」
『?』
相変わらずこの男の表現は曖昧過ぎて霞がかっている。
少女も茜も混乱気味に――頭に疑問符を浮かべているばかりである。
そんな問答をしている内に――
「じゃあ、そろそろ本当の『きん斗雲』をお見せしよう」
とうとうキースも煙の塊――雲の前へとやって来た。
「実はこの雲…………僕も触れない」
言ってキースが雲に手を伸ばすと、キースの手も二人同様すり抜けていた。
「ぬぬぬっ! 何時ものパターンなら先生だけは触れるってパターンなのに……これは意表をつかれましたね」
「そ、そうなんですか?」
顎に手を当て目一杯首を捻る茜に、困惑の表情を浮かべたままの少女が問う。
キースはそんな二人のリアクションを一頻り楽しんだが、笑顔のまま両手を大きく広げ。
「二人共、ちょっと雲から離れてくれるかな?」
『?』
怪訝そうな顔をしながらも素直に雲から離れる少女達。
するとキースは雲から1~2歩ほど距離を置くと、突然『ちょんまげ』と書かれた背を見せた。
――いや、正確にはマントに書かれている訳だが……。
兎も角、背を見せたかと思うと……今度は突然宙へと大きく飛び上る。
『――!』
呆気に取られる少女二人。
そしてキースは空中で器用に、
「よっ!」
一回転すると――片膝をつき、見事に着地を決めた……あの雲の上に!
「え! え? えっ?」
「おりょりょ?」
不思議な出来事に、頓狂な声を上げながら雲へと寄って来る少女と茜。
「ア、アレッ? さっきまですり抜けてたのに……何故?」
雲に触れるか触れないかの位置で手をかざす少女。そして茜にいたっては雲の下を覗き込み――
「う~む……ちゃんと浮いてますねぇ。先生の脚も突き抜けていないのです」
まあ、それは見れば誰でもわかる事だ。
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