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拒否権はないわ。
―――明日の朝にリウレンへの定期船が出ます。それに乗って、リウレンから更にクワテッドを目指しなさい。必要な道具は送ってあるから。
「…いやいや、ないわー。いきなり『学校行け』とか俺不登校してるみたいじゃんwww」
幼い頃から家庭教師が付けられてましたから、学校とか行ったことなくて正直ガクブルなんですけどwww
「よし。逃げようwww」
学校なんてつまんない(かどうかは知らない)ところに行かされるより、俺にはやりたいことがあるんだ!
それは……そう、行方知れずの父親探し!
父上。名をハジメ=ユキノ。世界的には魔王を討伐した勇敢なる勇者。
俺には母上の尻に敷かれてたイメージしかないんですけどね。
その彼が、行方不明になっているのですよ。人間の国で起こったトラブルを解決しに行ったきり帰ってこない。それが俺の8歳の時で、今から10年前。
妻である母上は父上を信じて待ってるけど、他の魔族の意見は「浮気」か「失踪」か「死亡」のどれかっていう話。
当時のことはあまりよく覚えていないし、母上に訊こうものなら号泣されるから訊かないけど、相当な混乱ぶりだったみたいだ。
あと、母上の側近でもあるアゼルさんが何かに付けて「あなたの父親の愚民は…」と絡んでくるのはそのせいだ。
きょうだいの中で俺が一番父上に似てるから。
迷惑な話だ。
(ま、そんなんでも父親だし。)
逃げるために必要そうなものを準備しながらため息を吐く。
そう、父親なんだ。否定しようがない、俺の血の繋がった父親。
…探し出せれば、きっと、母上も喜ぶよね。俺には更に双子の弟妹がいるんだけど、そいつらは父上の顔を見たことがないし。
「―――さて、行くか!」
必要そうなものは準備出来た。あとは抜け出すだけだ。今は夜だし、今の内に逃げるのが確実だろう。朝の便って言ってたし。
よし、最初はどこに行こう。父上の逸話は世界中にあるらしいし、それを一つ一つ巡るのもいいかもしれない。
ま、出たこと勝負で。
最後に慣れ親しんだ自室を振り返って……名残惜しいのを振り切って廊下へと繋がる扉を開けた。
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