エピソード1

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「京さん、今日は・・・」 「帰したくねぇな・・・」 車から降りる前にお礼を言おうとした所で、京さんの口が開いた。 「このまま優を連れ去りたい」 「っ・・・」 京さんの力強い瞳が私を見つめる。 『ドクン』 京さんは吸っていた煙草を灰皿で消すと、私の顔まで手を伸ばしてきた。 京さんの指が私の口唇をなぞる。 「優・・・」 「ッ!」 京さんの低い声が私の名前を呼ぶ。 それだけの事なのに、心臓が締め付けられる。 ゆっくりと京さんの顔が近づく。 「んっ・・・!」 京さんの吐息が感じられた瞬間、二人の唇が重なった。 「んっ・・・ふっ・・・」 次第に訪れる息苦しさ。 歯列をなぞる京さんの舌に身体が痺れる。 「・・・ぁ」 近くで感じる京さんの香りに頭が侵されていく。 「んぁ・・・」 京さんの唇がゆっくりと離された。 「はぁ・・・はぁ・・・」 私は息を整えようと呼吸を繰り返した。 車内に響き渡る息遣い。 呼吸は楽になってきたが、甘い痺れが取れない。 「大丈夫か?」 「・・・大丈夫」 京さんは肩にもたれる私の頭を優しく撫でていてくれた。 『コンコン』 突然、ふと私達の乗る車のガラスをノックする音が聞こえてきた。
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