エピソード1

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「ちよっ、拓真どこ行くの?」 拓真に腕を引かれ、部屋へ向かうとばかり思っていたのだが、連れられた先はマンションの駐車場だった。 「飯食いに行くって言ってただろ?」 目の前には白いベンツ。 この駐車場でひときわ目立ち、存在感を放っていた。 駐車場にオレンジの光と解錠を知らせる音が響き渡る。 「私お腹空いてない・・・」 「はぁ?」 京さんのお昼ご飯が遅かったためか、全然お腹が空いていない。 むしろ満腹感を感じている。 「俺は腹減った。デザートぐらい食えるだろ?・・・とりあえず乗れ」 そう言うと拓真は運転席に乗り込んだ。 デザート・・・。 私甘い物あんまり好きじゃないのに・・・。 深いため息を付き助手席のドアを開けた。 車のエンジンがかけられ、ゆっくりと走り出す。 マフラーとエンジン音が聞こえる京さんの車とは違い、拓真の車では音楽が流されていた。 「ねぇ、ご飯何処で食べるの?」 片手でハンドルを操りながら洋楽を口ずさむ拓真に尋ねた。 「あ?なに?」 どうやら聞こえてないようだ。 音楽うるさいからだよ! 「ご飯! 何処で食べるのって言ったの!!」 仕方なく先程よりも大きな声でもう一度尋ねた。 「何怒ってんだよ」 「別に、怒ってないし!で、どこ行くの?」 「着いてからのお楽しみ!」 「楽しみも何も、お腹空いてないんだけど」 「・・・いいから黙って乗ってろ」 再び音楽にノリ始めた拓真。 話す相手のいなくなった私は、助手席の窓に流れるネオンの景色をぼんやりと見つめていた。
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