エピソード1

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私の歩んでいた道に、突如として現れたもう一つの道。 その道は、京さんが纏う闇と同じ暗闇に覆われている。 私は道の分岐点まで辿り着くと、迷わず闇に覆われた方の道へと足を進めた。 なぜなら、その暗闇の中から私の名前を呼ぶ声が聞こえてきたから。 低く、優しく、とても安心できる愛しい人の声。 そう、京さんの声が。 閉じていた瞳をゆっくりと開く。 目の前に立つ蒼さんは、じっと私を見つめていたようだが、私と目が合った瞬間に口角を上げ微笑んだ。 私の瞳から覚悟を感じとったらしい。 「で、どうすんだ?」 隣から拓真の声が聞こえ、そちらに視線を向ける。 「決まったか?」 「うん。京さんの傍にいる」 私は拓真の瞳を真っ直ぐ見つめ、覚悟を口にした。 「そうか」 拓真の手が、ポンポンと頭の上に置かれる。 「優ちゃん。京の事、よろしく頼むね」 「はい」 正直、私にちゃんと京さんを愛せるかはわからない。 けれど、京さんを愛しいと思ったこの初めての感情に従って、前に進みたいと思う。 京さんと共に。
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