エピソード1

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「早く言えよ」 眉間にシワを寄せ不機嫌そうな拓真と、ニコニコと微笑む蒼さんに挟まれる。 「な、なんでもないよ」 「嘘だろ」 「うっ・・・」 拓真の鋭い視線に言葉が詰まる。 そんな睨まなくてもいいじゃん! 蒼さんは笑ってるし・・・。 誰でもいい、助けて!! 「っ!!」 願いが通じたのか、強く握りしめた携帯から着信を知らせる音が鳴り出した。 「で、電話だっ!」 椅子から立ち上がり、二人から離れた入り口の水槽の前まで移動する。 誰だか知らないけど助かった! あの場を離れるきっかけをくれた電話の相手に感謝する。 幻想的な水槽の前に着き、画面を確認すると京さんからの着信だった。 「おい」 カウンターから声が聞こえ、そちらに視線を向けると拓真と蒼さんが不審そうにこちらを見ていた。 「電話、出ねぇのか?」 「で、出るよ!」 カウンターに背を向け、小さく深呼吸を一つする。 よしっ! 手の中で鳴り続ける携帯の通話を押し、ゆっくりと耳に当てた。 「も、もしもし?」 心を落ち着かせてから電話に出たはずなのに、いざ口を開くと噛んでしまった。 『大丈夫か?』 低く耳に響く京さんの声。 その声の第一声は、私を心配する言葉だった。 「へっ?」 『電話』 「電話?」 『すぐ出なかっただろ』 「あっ!ごめんなさい・・・でも助かりました!!」 『助かった? なんかあったのか?』 京さんの声が一段と低くなる。 『今どこだ。拓真さん一緒じゃねぇのか?』 「一緒ですけど・・・その拓真が原因なんです」 『は?』
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