エピソード1

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『おーい!』 頬を伝う涙を拭っていると、受話器から京さんではない声が聞こえてきた。 その声には聞き覚えがある。 この声は・・・秀さん? 『京!』 『・・・見つかっちまった』 相変わらず大きな声の秀さんと、小さい声で残念そうに呟く京さん。 それはかくれんぼをしているかのようで、思わず笑ってしまった。 『わりぃ、また連絡する』 「あっ、はい!」 『とりあえず必要なもんだけ荷物まとめとけ』 「あ!荷物!!」 荷物の事なんて考えてもなかった! 『あと、また敬語使ってんぞ』 「はっ!!」 『次使ったら、お仕置きな』 「ひぃっ」 ヤクザのお仕置きって・・・。 軽く想像しただけで、体中の血の気が引いていく感じがした。 『じゃぁ、また明日な』 「う、うん・・・」 『・・・優』 「ん?」 『愛してる』 「っ!!」 血の気が引いていた身体に、血液が凄い勢いで巡っていく。 青ざめていた私の顔は、目の前を優雅に泳ぐ熱帯魚よりも真っ赤になっていることだろう。 んなっ!? 気付けば、京さんの声は消え『プー、プー』という通話を終了させる音だけが響いていた。 未だ耳に残る京さんの甘い声。 こんなんで一緒に暮らせるのかな・・・。 「どうした?」 「ひゃぁ!?」 携帯を耳から離した瞬間に耳元で話し掛けられる。 考え事をしていたせいか、心臓が跳ねる程驚いた。
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