エピソード1

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「寒くねぇか?」 「うん」 蒼さんのお店、BLUEMOONを出た私たちは、拓真の車を止めたパーキングへと歩いている。 この時間になっても人通りは多く、様々な人で賑わっていた。 「ねぇ」 「ん?」 「必要な物ってなに?」 隣を歩く拓真に聞こえるぐらいの声で尋ねる。 「は?なんだいきなり」 私の唐突な質問に、拓真は首を傾げていた。 「京さんに、『明日、必要な物だけ用意しとけ』って言われたから・・・」 「あぁ、そういうことか」 私の家へ渉が来ることがあっても、私が他人の家で過ごすという事をしたことがない。 そのため何を用意したらいいのか分からなかい。 「拓真、出張とかで家にいない日が多いでしょ?」 「あぁ」 「何持ってくの?」 「そうだな・・・」 拓真は、すっかり闇に包まれた夜空を見上げた後、驚くべき言葉を口にした。 「財布と携帯」 「・・・・・は?」 財布と携帯なんて、普段の外出時にも持ち歩くものじゃないの? 「私は出かける時の必需品を聞いたんじゃないよ?」 「あぁ」 『あぁ』じゃないし! 「泊まるために必要な物は?」 「財布と携帯」 「・・・」 「必要な物なんて、その時にならねぇとわかんねぇじゃん」 「そうだけど・・・」 「必要だったらその時に買えばいい」 当然かのように言う拓真。 「着替えとかは?」 「買う。服屋なんてどこでもあるだろ?」 なんだ、この男は! 「優も携帯だけ持ち歩ってくれればいい」 私は、隣で私に笑顔を向ける拓真に尋ねた事を心底後悔した。
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