エピソード2

8/43
前へ
/224ページ
次へ
シャワーを終えた私は、濡れた髪をタオルで拭きながらリビングへ向かった。 ソファーにいるだろうと思っていた人物がいなくなっている。 「あれ?」 出かけたのかな? 誰もいないリビングにテレビの音だけが響いていた。 「テレビついてるし」 リモコンを手にし電源を切る。 ふと視線をテーブルに落とすと、拓真の車の鍵と財布が置かれていた。 あれ?出掛けたんじゃないのか・・・ 私は寝室へと足を進めた。 「・・・寝てるし」 寝室のドアを開けて聞こえてきたのは、規則正しい拓真の寝息。 眠る拓真を起こさないように、そっとドアを閉じ寝室を後にした。 私の携帯、どこにしまったんだろう・・・。 リビングのテーブルの上には、携帯の姿はどこにもない。 リビングにないという事は、未だ拓真が持っているのだろう。 私は携帯を諦め、テーブルに置かれた煙草に手を伸ばした。 髪の毛乾かさなくちゃ。 煙草を灰皿に置き、ドライヤーを用意し、バックからウォークマンを取り出すとイヤホンを耳に当てた。 電源を入れると、お気に入りの曲が耳に流れ込んでくる。 私の髪が長いため、乾かすのに時間がかかる。 乾くまでの間、お気に入りの音楽を聞くのが私の日課になっていた。 髪を乾かしながらも考える事は京さんのこと。 そういえば、まだ何歳か聞いてない。 付き合ってるっていうのに・・・。 私、何も知らないんだ。 こんなに一人の人に対して考え、悩む日がくるなんて、昨日までの私は思いもしなかった。 京さんはこれから知っていけばいいって言ってくれたし、少しずつ教えてもらおう。 ・・・一緒に生活させてもらうんだし。 イヤホンから流れる曲の3曲目が終わった頃、私の髪も乾いたようだった。 テーブルに置かれるマグカップに手を伸ばし、既に冷えきったコーヒーを口にする。 カップをテーブルに置くのと交換に、煙草の箱を手に取り一本取り出した。 口にくわえZIPPOで火をつけ、煙をゆっくりと吸い込む。 静かな部屋にZIPPOの蓋が閉じる音が響いた。 あれ持ってかなきゃ。 リビングをゆっくりと見渡し目に付いた両親の写真。 飾られた場所まで行き、写真を手に取ると胸に抱き寄せた。 パパ、ママ・・・。 ゆっくりと胸から離すと、用意されたバックの一つにそっとしまい込む。 これで明日の用意も完璧だ。 万が一忘れている物があったとしても、拓真の言う通り取りに来ればいい。 私は吸っていた煙草を灰皿で消し、拓真が眠る寝室へと向かった。
/224ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4437人が本棚に入れています
本棚に追加