エピソード2

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「・・・ゆう」 「ん・・・」 誰か、私を呼んでる? 「優、起きろ」 重い瞼をゆっくりと開けば、目の前に拓真の顔があった。 「うわっ」 あまりの顔の近さに驚く。 「何寝ぼけてんだ?」 「ね、寝ぼけてないし」 重い体をゆっくりと起こす。 あれからどの位寝てしまっていたのだろう。 目の前の拓真は既にスーツに着替えていた。 「あれ?もう出掛けるの?」 「あぁ、橘から呼び出された」 朝方機嫌悪く話していた相手は橘さんだったようだ。 「ったく、予定がはやまったんだと」 どうやらまだ機嫌は治っていないらしい。 「見送ってやれなくてわりぃな」 「大丈夫だよ。気をつけて行ってきてね」 ふいに肩を引き寄せられ、拓真に抱きしめられる。 「な、なに?」 「少しこのまま・・・」 きつく抱きしめる腕と、柑橘系の爽やかな匂いに包まれた。 「優も成長したな」 「ん?どうしたの急に」 「いや、抱き心地がよくなったなと思って。特に、胸の辺りが」 「っ!?変態!!」 一気に熱が顔に集中する。 離れようともがくものの、拓真の腕は緩まなかった。 暴れる私を助けるかのように、もはや聞き覚えのある音、拓真の携帯が鳴り出した。 「拓真!電話鳴ってるから」 「チッ」 拓真は軽く舌打ちをし、渋々私の腰に回した腕を解いていった。 「出なくていいの?」 「橘からだ。どうせまた怒られるんだろうから、いい」 「またって・・・」 「じゃあ、行ってくる」 そう言うと寝室のドアに向かって足を進めた。 「玄関まで見送るよ」 「あぁ、ありがとな」 私もベットから降り、玄関へ向かう拓真の背中を追いかけるように寝室を後にした。
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