エピソード2

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テーブルに置かれた物はマグカップ。 どうやら、渉が用意してくれたようだ。 「渉、ごめん!」 「あぁ。じゃあ、俺は先に家もどります」 渉は軽く頭を下げると、私達に背中を向けた。 「渉?」 私の呼びかけに足を止め、ゆっくりとこちらに振り向く。 「優も早く用意して来いよ」 そう言う渉と今日初めて視線が重なる。 渉の瞳は悲しそうに揺れていた。 「いつまでその顔でいんだ?」 「え?」 「早く化粧した方がいいんじゃねの?」 「あ!!」 渉に言われて気がついた。 自分がスッピンだった事に。 慌てて両手で顔を覆う。 「もう遅ぇよ」 渉に鼻で笑われた。 右手の指を少し開き、その隙間から渉をのぞき見る。 「そんな事してねぇで、早くしろよ!」 そう言うと渉は背中を向け、リビングから出て行ってしまった。 どうしたんだろう・・・。 京さんがいるからだろうか。 渉がいつもと違う。 表情、口調、全部。 初めて、渉の今にも泣き出しそうな瞳を見た。
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