エピソード2

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◆◆◆◆◆ 用意を終えた私達は、藤堂家に向けて車を進めていた。 昨日も乗った黒の艶めく車。 私は助手席に、運転席には京さんが煙草を吸いながら座る。 トランクと後部座席には、私の荷物が積まれている。 「・・・これ全部持ってくのか?」 「うん」 昨日私が必死に纏めた荷物を見て、京さんは少し驚いていた。 「必要なもんだけ纏めとけって言ったよな?」 「これでもかなり減らしたんだよ!」 「・・・そうか」 京さんは呆れた表情をしながらも、荷物を車に運び込んでくれた。 昼間だというのに、フルスモークの窓から見る景色は薄暗い。 けれど、そこから見える見覚えのある景色に懐かしさがこみ上げてきた。 幼い頃、毎日のように行っていた藤堂家。 少なくとも、ここ1年は行っていない。 それを今日、まさか京さんと一緒に行く事になるとは思いもしていなかった。 「どうした?」 ふいに京さんに声をかけられる。 じっと窓の外を見つめ黙り込む私を見て変に思ったのだろうか。 「なんか、緊張してきちゃった」 「なんで急に行こうと思ったんだ?」 「え?」 「行くと決めたのは優だろ?」 「・・・うん」 そうだ。 誘われてたっていうのはあるが、行くと決めたのは私。 今まで心配をしてくれていた皆に、お礼を言う為に決めた事。 「大丈夫だ。俺がついててやるから」 そう言うと、京さんは私の右手をギュッと握り締めてくれた。 その言葉と手の暖かさが、私を安心させてくれた。
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