エピソード2

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「駄目ですよ、姐さん」 ビール瓶を両手に掴み、立ち上がろうとする淳ママを葵兄が止めていた。 「何するのよ!」 「秀は、京と優さんを迎に来たんですから」 「えー!優、帰っちゃうの?」 私の腕を掴んだ淳ママ。 酔っ払ってウルウルした瞳に赤い唇。 女の私から見てもとても色っぽい。 「う、うん」 「ほら、酒ならオヤジが付き合いますから」 「あぁ?俺は・・・もういい」 お酒だけでなく食事も楽しんでいた賢パパは限界らしい。 「・・・では、私が」 「えー?葵は酔い潰れないからつまんなーい!」 確かに葵兄も先程からかなり飲まされているが、全く酔っている感じがしない。 「優、行くぞ」 そんなやりとりを見守っていると、隣に座る京さんが耳元で呟いてきた。 「え?じゃぁ、挨拶・・・」 「後で伝えればいい」 帰る前に挨拶だけでもと思ったが、京さんに止められた。 「また淳さんに捕まったら厄介だ」と、苦い表情を浮かべる京さん。 周りを見渡せば、横になる賢パパと組員達。 淳ママを見れば、葵兄との飲み比べが始まっていた。 「葵さんが相手になってるうちに、行くぞ」 「うん・・・」 京さんに腕を引かれる形で立ち上がり歩き始める。 部屋を出る最後に葵兄に視線を向けると目が合った為、胸元で小さく手を振った。 それを見た葵兄は笑顔を返してくれた。 玄関へと続く長い廊下を、京さんに肩を抱かれながら秀さんの後ろを歩いていく。 渉の家は、馬鹿みたいに大きく広い。 マンション暮らしだった私にとって、渉の家はお城のようなものだった。 あれ?誰かいる・・・ 玄関の外に人影を見つける。 いつの間にか外が暗くなり始めていたようで、人物の特定が出来ない。 スリッパから靴に履き直し、その人物に目を凝らすと暗闇で金髪が輝いていた。 「あ、渉!」 京さんの腕から離れ、外にいる渉に向かって走り出した。 「今日はありがとう!賢パパと淳ママにお礼を伝えれてないんだけど・・・後で伝えておいてもらえる?」 「わかった」 「それからっ」 「優」 指に挟んだ煙草を口に運びながら、素っ気ない返事をする渉。 それでもいいと思い、お礼を伝えようとしていると、後ろから低い声で私を呼ぶ声が聞こえてきた。
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