エピソード2

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後ろを振り向くと、車の後部座席に座る京さんと、ドアを開ける秀さんの姿があった。 「優、乗れ」 心なしかその声は少しだけ冷たく感じた。 「行けよ」 「・・・うん。じゃあ、また連絡する!」 渉にそう言い残し、開かれたドアから京さんの車に乗り込む。 隣を見れば、スラリと伸びた足と腕を組む京さん。 表情は窓の方に向けられていたため伺い見る事が出来なかった。 でも、なんとなく分かる。 京さんの周りを包むオーラ。 車に充満する空気。 明らかに、京さんは機嫌が悪い。 急にどうしたんだろう・・・。 「よし!んじゃ帰るでー」 運転席に乗り込む秀さん。 その登場に少しだけ安堵した。 ゆっくりと車が進み出す。 外の景色に目を向ければ、頭を下げる渉の姿があった。 いろいろ話そびれちゃった・・・。 次第に消えてゆく渉。 濃く貼られたスモークが邪魔をする。 大きな門をくぐり抜ける頃には、見えなくなっていた。 暗くなった道を滑るように走る車は、やはりとても乗り心地が良い。 けれどその反対に、空気の悪さに居心地の悪さを感じていた。 「どうやった?優ちゃん。藤堂家久しぶりやったんやろ?」 滑らかに車を操縦する秀さんが尋ねてきた。 「はい!楽しかったです」 「そりゃよかったな!俺もまた優ちゃんに会えて嬉しいわ!」 「私もです」 「ホントかぁ?」 「あはは」 「・・・」 車内には三人乗っているはずなのに、響く声は二人分。 京さんは未だ一言も話さず、外の流れる景色に目を向けるだけだった。
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