エピソード2

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お風呂の脱衣所に着き、そっと降ろされる。 「んなっ!!」 早速スーツの上着を脱ぎ始めた京さん。 私は目のやり場を無くす。 慌てて、目を両手で隠し瞳を閉じた。 な、何で京さん服脱いでるのっ!? 見せたいものって!? 混乱と恥ずかしさが頂点に達する。 京さんって、変態なの!? 「優」 声と共に手首に熱を感じる。 どうやら目元を隠す右の手首を握られたらしい。 「俺は変態じゃねぇぞ」 心の中で思っていた事が京さんにバレてしまったらしく、驚いた拍子に思わず目を開けてしまった。 「・・・あっ」 目の前にはスーツとシャツを脱ぎ捨てて、上半身裸の京さん。 引き締まった体に、程良く付いた筋肉。 けれど、その肉体美より私の目に飛び込んできたものがあった。 胸から肩、そして腕に続く模様。 両腕とも手首の辺りまで殆ど肌の色は見えない。 まるで一枚服を着ているかのようだ。 どうやら京さんは、これを私に見せたかったらしい。 左手で私の腕を掴む京さんの腕にそっと触れる。 「・・・刺青」 私の正面に立っていた京さんが、ゆっくりと背中を向けた。 「・・・・きれい」 私の口から、言葉が漏れる。 背中一面に描かれる長い体と鱗。 大きく開かれた口。 鋭い爪。 手に持つ水晶玉のような物。 こちらを威嚇するかのように睨めつける鋭い瞳。 それは、昇り龍の姿だった。 今にも飛び出してきそうなぐらいの躍動感。 色は殆ど使われていないが、力強く、繊細に描かれていた。 「俺が一生背負っていくものだ」 京さんが背を向けたまま呟く。 「聞かせて欲しい。こんな俺でもついて来てくれるか?」 「京さん・・・」 私は京さんを、背中からそっと抱きしめた。 「私は京さんの事が好きなの。ヤクザだろうがなんだろうが、関係ない!怖くない、って言ったら嘘になるけど・・・私は京さんの傍にいたい」 私は素直な気持ちを伝えた。 正直、不安な想いはある。 人を好きになるという事が初めての私にとって、分からないことだらけだ。 「私は京さんについて行くよ」 愛おしい人をギュッと抱きしめながら、私は応えた。 「・・・わかった」 背中越しに聞こえる京さんの声が、耳に響く。 「きゃっ!?」 お腹に回した腕を、グイッと前に引っ張られる。 顔を上げれば、自信に溢れた笑み。 京さんの形のいい唇が妖しく上がった。 「もう離さねぇから、覚悟しろよ」 「んんっ!」 重なり合う唇は、今までしたキスよりも、熱く、深く、甘いものだった。
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