エピソード2

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「・・・優、こっち来い」 「・・・」 「まだ怒ってんのか?」 「・・・怒ってない」 2回目のお風呂を終えた私は、怒るというより拗ねていた。 やはり強制的に京さんも一緒に入ることになり、逆上せ上がることはなかったが、身体に纏ったタオルは無理やり剥がされ、生まれたままの姿を京さんの前で晒すことになってしまったのだ。 一度見られたとはいえ、意識があるのとないのとでは全然恥ずかしさが違う。 そして、目の前の京さんも当然裸のわけで、目のやり場に困ってしまった。 男性経験の無い私にとって、刺激が強過ぎる。 最大限に体を縮こまらせ、急いでシャワーを終わした私は、京さんを残し一人先にお風呂場を後にした。 「ふぅー、恥ずかしい・・・」 着替えたくても、荷物がどこにあるのかわからない。 勝手に部屋を開けて回るわけにもいかないので、ひとまずバスタオルを体に巻いて京さんが出てくるのを待つことにした。 肌触りのいいカーペットに腰をおろし、呼吸をゆっくりと整えながら。 「髪、乾かしてやるから来いよ」 「・・・うん」 ソファーに座る京さんのもとにゆっくりと近づく。 お風呂から上がった京さんは、パンツを履いただけの姿だった。 身体の大部分に入れられた刺青を惜しげもなくさらけ出し、濡れた髪の毛は後ろに流されている。 その色っぽさに、一度は落ち着いたはずの心拍数がまた上がっていく。 「寒くねぇか?」 「うん。大丈夫」 むしろ暑い。 ドライヤーから出る暖かい風と、優しい京さんの手、時折耳元で聞こえる声がとても心地よい。 「長ぇな」 髪の毛が乾くまで後少しという所で京さんが呟いた。 私自身この髪型は気に入っている。 でも京さんはロングヘアは嫌いなのだろうか・・・。 「長いの、嫌い?」 「いや、嫌いじゃねぇよ。優に似合ってる」 その言葉を聞いて安心する事ができた。 「もう大丈夫か?」 熱風で熱くなった髪に指を入れる。 どうやら腰まである長い髪も毛先まで乾いたようだ。 「うん!ありがとう」 京さんは私の言葉を聞いてドライヤーのコードをまとめ始めた。 「あれ?京さんは?」 「ん?俺はいい」 そう言うと京さんは立ち上がり、ドライヤーを持って何処かに行ってしまった。 京さんが乾かしてくれた髪を指で整える。 そこで気がついた。 自分が今、体にタオル一枚だけ巻き付けた姿だった事を。 「優」 後ろから京さんの少し大きめの声が聞こえ振り向く。 『こっち来い』と言うように手招きしていたため、すぐに立ち上がり京さんのもとへ急いだ。
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