番外編

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「・・・そうか」 煙草の灰を地面に落とす。 「秀さん、お願いです。この事は優には絶対に言わないで下さい」 そう言うと、渉は俺に頭を下げてきた。 「言わねぇよ。だから頭なんか下げんな!」 目の前にある渉の金色の頭をガシガシと撫でた。 渉の抱える葛藤。 この男はこの年にして抱える物がデカすぎる。 それは京も同じなのだが。 「お前、もう少し気楽に生きてもいいじゃねぇか?」 俺は渉の頭から肩に手を移す。 この言葉は昔、京にも言った事があった。 俺と違って極道という道は、コイツらが選んだわけではない。 龍神組も藤堂組もいうなれば家業。 その家に産まれたが宿命。 そんな環境で生きてきたからか、同年代の奴等と比べると妙に落ち着きがあり、物事を深く考える癖がついていた。 けれど、たまには自分の思うがまま行動してもいいんじゃねぇか?と俺は思う。 そしてそれを近くで見ているからか、コイツらには人一倍幸せになってもらいたかった。 俺の言葉がどう伝わるかはわかんねぇが、渉はあの時の京と同じように何も言わず、ただ静かに笑みを浮かべていた。 「渉に1つ聞いておきたい事あるんやけど」 「え?」 「優ちゃんって何者なん?」 俺が今分かっている事といえば、渉の幼馴染みだという事だけ。 組の奴等からの連絡もまだ来ていない為、直接渉に聞くことにした。 「確か名字、大河内や言うたな?もしかして・・・」 「・・・葉月さんの娘です」 「やっぱり」 渉の口から出た懐かしい名前。 かつて俺がまだガキの頃お世話になった人の名だ。 あの人はどうしようもねぇ俺に、龍神という居場所を与えてくれた。 『いつかこの人に恩返しをしてぇ』そう思っていた矢先、つまらねぇ事故で死んでしまった。 結婚して、一人娘がいる事は知っていたが、その娘が優ちゃんだったんか。 「優は、葉月さんと香さんが亡くなってから、拓真さんに引き取られてます」 「そうなんか・・・」 俺はこの時密かに決意をしていた。 空を見上げれば、満天の星空。 京が優ちゃんに興味を持った事で、少なくともこれから何らかの害が及ぶだろう。 そのあらゆる出来事から、あの人の代わりに俺が優ちゃんを守っていく。 葉月さんに出来なかった恩返しを、優ちゃんにしていこう。 こんなんガラじゃねぇが、キラキラと輝く星に胸の中で誓った。
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