番外編

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二人での話を終え、皆がいる倉庫の中へと入る。 中は外の空気とは違い煙草の煙で澱んではいたが、暖かかった。 賑やかな声と音。 ここは今でも居心地がいい。 奥の席にかけ、外での会話を優ちゃんに悟られないように振舞う。 優ちゃんにベッタリな京と渉の姿を見た時は思わず吹き出してしまった。 「・・・秀さん、運転は?」 目の前に置かれたビールを一気に飲み干した時、優ちゃんの不安そうな声が聞こえた。 優ちゃんは飲酒運転を気にしてるんだろう。 葉月さん達の事故の原因になったのも、相手の馬鹿な飲酒運転野郎のせいだ。 あの事故以来、飲酒運転は御法度。 勿論俺や京も酒を飲んだ時はハンドルを握る事はしていない。 「大丈夫や!誰か迎え呼べばいいやろ」そう言う俺に未だ疑心の目を向ける優ちゃん。 どうやら信用されていないようだ。 「そんな心配すんな。ちゃんと組のもん迎え呼ぶから」 「はい・・・」 京の言葉には素直に頷いた優ちゃん。 その様子を見てクスクスと笑う涼を肘でどついた。 倉庫内にいる奴等に、飲酒運転の注意を済ませ、改めて乾杯をしようとした時、突如優ちゃんが泣き出した。 泣き出したと言っても、涙が零れた程度だが。 その光景を見て、俺と葵さんと涼は戸惑ってしまった。 「・・・泣いてごめんなさい。みんなのくれた言葉が嬉しくて。・・・ありがとうございます」そう言いながら頭を下げた優ちゃん。 どうやらその涙は嬉し涙だったらしい。 よっぽど寂しい思いをしていたのだろう。 それを聞いて安心したが、優ちゃんは俺の顔を見た途端笑い出した。 「ちょっ!俺の顔見て笑うってなんやねん!!」 思わずいつもの調子でやってしまった。 引き攣った表情になる優ちゃん。 『・・・ヤバ』そう思った時にはもう遅かった。 「優さんに凄んでんじゃねぇぞ!てめぇがすっとぼけた顔してっからだろ」 案の定横から葵さんのドスの効いた声が飛んできた。 この人も優ちゃんに尽くす一人らしいが、この変わりように優ちゃんの引き攣った顔は泣きそうな顔へと変わっていった。
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