秋雨街道

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綸は、その言葉に、暫し俯いたようであったが。 「分かりました。お兄様の言葉に甘えさせて頂きます」 「うん、ゆっくりどうぞ」 「申し訳ありません」 風呂場に姿を消していくその後姿を見送って、ひとまず繋も着替えようと自室に入った。 聖宮繋の部屋は、殺風景な和室である。 私物は、いくつかの衣類と、数冊の文庫本、漫画。一見、簡素に見える。 が。 その押入れの奥、最早三つに増えた籐籠の中に、あらん限りのアハンでウフンなピンク一色のアレが詰まっていることを、知っている奴は知っている。 あのオーナーと、神様と、そして、俺。 その所有権の半分は俺のものだ。残り半分は狭霧姫。 あの神様から半分譲渡された、嬉しいやらそうでないやら、男独り身ゆえのコレクション。 「彼女か」 考えたことは、ないでもなかったが、やはり自分のことで手一杯だった。 バイトは忙しかったし、高校時代は母親に気を遣っていた。 高校の時、そのような気配が、無かったといえば、嘘になる。 だが、母親が、明らかに機嫌を損ねた。 そこで反抗すればまた違った未来だったのだろうが、大してこだわりもしない、淡い関係であったし、それもその時限りで終わっている過去である。 「―――だから、だな」 あの子には、自由な恋愛とか、して欲しいと思っている。 俺の出来なかったコトを。 俺がやりたくて、手の出せなかったコトを、あの子はきっと、これからやっていけるから。 俺には色々遅くても、あの子にはきっと、まだそういうことが出来る時間が残されている。 それを大切にして欲しい、と、即席の兄貴分は思っているのである。
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