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「お兄様…」
上機嫌そうな声。
引っ付いても怒られないと気づいたのだろうか、しきりと引っ付いてくるその身体。
繋は思わず、苦笑していた。
「いいのか、俺なんかに抱きついてて」
意中の人がいるんじゃないか、と言外に滲ませたのだが、綸は、その濡れたような瞳で見つめてくる。
「…お兄様は、もしかして、お嫌ですか」
「綸が、そうしたいなら、いくらでも」
「…」
寄り添う綸の呟き声は、微かで。
繋には聞こえていなかった。
「(ありがとうございます、狭霧様。傘を私から取り上げて、雨を降らしてくださいまして)」
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