桜木ケント

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「何か落としたの?」 さっきの彼女の声が背後からして、僕はかなり焦った。 「な、何でもない」 そう言って振り返り、また驚いた。片方の手で肉まんらしきモノを僕に差し出している。もう片方にコンビニ袋を引っさげて。 「ハイ!」 「何、それ?」 「何って、肉まんよ。ニ・ク・マ・ン。……もしかして、嫌いだった?」 一日三十円。それが僕が決めた、僕の予算。別に節約をしているとか貯金をしているとかじゃない。 今年になり、父親が会社をクビになった。それからは、正職を探す傍らアルバイトをしている。 そんな家庭に世間並みのマトモな小遣いがある訳もない。中二だというのに月初めに五百円玉が一枚手渡されるだけ。
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