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吹き付ける風が強い。
寒さを感じる訳ではないけれど、ばさばさと暴れる髪が鬱陶しい。
「本当にこれで良いのかしら。」
編み上げられた黒のブーツ、惜し気もなく晒された白い脚を包む短いスカート、毛皮で縁取られたローブ。
冬に訪れる聖人と揃いの赤を基調とした装いで、眼下の町並みを見下ろしている。
「似合ってますよ?」
少年の少しずれた言葉に、寒空の下で温かさを感じる。
彼は不思議な子だ。
私がこの世には既に存在しない者であると知っても、傍にいて同じように感じようとしてくれる、優しい子。
彼を連れて還ろうかとも思ったのだけれど、結局未練として居着いてしまった。
彼と出会った実りの秋が過ぎ、眠れる冬が来た。
この季節、良い子にはプレゼントが届くというクリスマスは、あまりこの世界では祝わないらしく、まだあどけなさが残る彼は残念そうだった。
ならば、自らが仕掛け役となれば良い。
ぽつりと零れた言葉ではあったが、彼をその気にさせるには充分だった。
自分も乗り気になっていたのは、代わり映えのない日々に退屈していたせいに違いない。
「準備できましたっ。」
ふわりと笑う彼の鼻は寒さで赤く、トナカイを模したよう。
実に楽しそうに今宵を待っていた彼は年相応で愛らしいと思う。
まだ自分にもそういった類の感情が残っていることに、結局は自分も女なのだと痛感した。
でもそれが、昔とは違ってくすぐったく感じられる。
「じゃあ、お願いしますわ。」
辺りを見回せば、そこには私と同じ人ならざる者たちの姿が。
彼らはアナザーに付き従うデビルたち。
主への贈り物を届けるには適任だろう。
ウィッカを統べる魔女たちには私たちがお届けを。
聖なる夜ぐらいは争い事は遠慮して、宴に花を咲かせるのも良いだろう。
「……私がそう思うのも可笑しな話だけれど、ね。」
あの人が聞いたら笑われそうだわ。
──かつての魔女が何を言っているのか、とね。──
デビルと戯れている彼を呼んで。
「さて、行きましょうか。」
雪が降り始めた。
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