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これは最近、友人から聞いた話である。それは彼が大学時代に帰郷したときの話である。
盛夏の候、炎天下で眩しいくらいの日差しが刺さるようである。この暑い中、彼、ここからは友人Aとしよう。友人Aは地元の友人と幽霊が出ると言われていた墓地に肝試しをしに行くこととなった。みな若いので、こういったスリルと言うものに目がなく、誰も否定的な人間は出なかった。
草木も眠る丑三つ刻、噂通りの静かさであった。彼らは、部分、部分をわずかに照らせる懐中電灯と少しの諸道具を準備して墓地の内部へと入っていた。
「静かだなあ。流石うちの田舎だ。人っ子一人いないぜ」
仲間の一人が言った。
「なにいってんだ、馬鹿。こんな時間に墓地行くやつなんていねえに決まってんだろ。仮にいたとして墓荒らしくらいじゃねえか」
明るい雰囲気を醸し出す。こういった長い休みでしか会うことができないので、一様に喜びを感じているようだ。もちろん、友人Aも心の内で湧き出る喜びを感じていた。
「ああ、祭りが楽しみだな」
「明日、そう言えば祭りだったよな」
すっかり忘れていた。Aは彼らの会話で思い出す。
「明日って祭りだったのか。しばらく来ないうちに忘れてたぜ」
「おいおい、しっかりしろよ。女の子ナンパできる数少ないイベントなんだぜ」
季節は八月。各地で祭りがおこなわれる時期。この時期は、先祖が天界から帰ってくると大昔から謂れがある。彼の地元に限定した話ではない。
「柳の下ってさ。昔から幽霊がいるっていうよね」
「いやいや、ドジョウだろ」
「言っとくが、正確にはドジョウはおらぬだぞ」
仮に幽霊の姿を見たとして、枯れ尾花だったと信じたい。
夏といっても、風は冷たい。背筋がひんやりする。
「おい誰か、何かあったかいコーヒーとか持てないか」
「俺はうどんが食べたいなあ」
「おい、お前ら肝試ししてるんじゃないのかよ」
「だってよ。いつまで経ってもなにも出てこないし、恐怖なんて一切合切感じないし」
当然ともいえよう、何の細工もないお化け屋敷と一緒なのだから。
「マジで終わりにしねえ。幽霊さんたちも人間怖くて出られないんだよ」
「そもそも、幽霊なんて存在しなかったんだよ」
仲間たちは、あまりに退屈だったのか。みな帰る準備をし始める。
「カラコロ、カラコロ…」
急に音がした。
「おい誰だよ。携帯で音なんか鳴らしてんじゃねえよ」
仲間の一人が言う。
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