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「そんな効果音、携帯に入れてないよ」
みなそう言った、思った。
「じゃあ、誰だ。まさか下駄の音がする細工を仕組んでんじゃないよな」
「仕掛けなんて一切してない」
じゃあ、いったい誰が。そう考える。
「まさか幽霊の仕業とかいう奴はいないだろ。あんなの架空の話なんだから」
「カラコロ、カラコロ、カラコロ…」
その音は次第に大きくなる。
「そこにいるのは誰だよ。出てこい」
仲間が音のする方に声を向けた。
「“ワタシノコトデスカ? ”」
返ってきた声は、とてもしわがれていて、聞き取りにくかった。また、懐中電灯にも全く映らない。
「お前は誰だ! 」
「“ワタシノソンザイヲシリタイカ? ナラオミセシヨウ”」
このとき、Aの汗は凍り付いて冷たくなった。同時に、思考や感覚は殆ど止まっていたようだった。
あれは何だ。剥がれきっていない肉が頭蓋骨にくっついている。腐っているせいか、地が本来なら白くなるはずの白い骨を緑に染めている。普通の白骨だって気味が悪いのに、緑色の骨だ。それが腐りかけた肉眼で我々を見ているのだ。醜い外見のそいつが、まだこの世を生きる我々を見ているのだ。
「“キサマラハシノセカイニアシヲフミイレタ。ココハモウジャノミチダ。イキタニンゲンガ、シンニュウシテハナラナイシノセイカイノトオリミチ。ヤブッタモノニハバツヲアタエネバナラナイ”」
このとき、Aは直感した。その骸骨が言う罰とは死の世界に連れて行くことだと。
「みんな逃げるんだ。捕まったら死ぬぞ! 」
出せる声の限界に達するくらい大声で叫んだ。非現実的な存在に対し困惑する仲間に、現実の声というもので正気に戻させる。すると、同時に足に力を振り絞って走る。
しかし、骸骨もただで帰してくれるほど甘くはなかった。俺たちが逃走し始めると、すぐに追走してきたのだ。
「なんで、あいつ追っかけてくるんだよ! 」
「あまり後ろを向くんじゃない。逃げることだけに集中しろ」
逃げる、逃げる。そのことだけで頭がいっぱいだ。口から今にも血が出そうな程に疾走し、墓地の入り口へと向かった。
「あと少しで入口だ」
目で確認できる位置まで到着する。死の世界と現実世界の狭間から、現実世界に戻ってこれる。
「ふぅ、何とか帰れた」
「ああ、興味本位で墓地なんて行くもんじゃないな」
「まったくだ。でも、貴重な経験ができたよ」
「永遠に忘れたい記憶だけどな」
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