止まった時間

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止まった時間

100万人を優に超える大都会。街の中は一日中騒がしく、世間の人々は眠らない街と俗称する。明るく、華やかな街で真っ黒に薄汚れた屑同然の人間がいる。 俺のことだ。 公園に住みつき、勝手にそこを自分の私有地と勘違いしている。子供たちの遊び場であるのがこの場所の本来あるべき姿なのに、その目的を個人の思い上がった感性や思慮により、汚い巣窟にしてしまっているのだ。傍から見たら誠に遺憾な事実であり、然るべき対処として強制退去を命じるであろう。 俺も悪いことだと思っているが、生き抜くためにはこの手段以外に思いつかないのだ。住処を借りようにもお金がない、お金を求めて仕事を探そうにも仕事がない。こんなお先真っ暗な私に将来なんてありはしない。 もともと、都会ならば仕事もあっていいかと思い、やって来た私であった。その当時は私自身も若く、会社も青田狩りをする傾向があり職に在りつくのは困難では決してなかった。また、日ごろから熱心に仕事をこなしたので社内でも働き者として評判であった。景気もうなぎ上りで街は賑わい、皆浮かれていた。楽しんでいた。舞台で派手な服を着た踊り子が騒ぎ、洒落た服装の紳士は反射光を放つ透明なワイングラスに高級白葡萄酒を注ぐ。TVで高級新車が広告されると、カーショップは多くの人で溢れる。そんないい時代だった。皆明るい顔をして過ごしていたあの頃に戻りたい。誰かタイムマシーンを発明してくれないか。こんな外見だけが綺麗で明るい時代にはこりごりだ。 「ちょっと、そこの人。寝てるんですか」  身を揺さぶられる。物思いにふけていた私を現実に引き戻した。 「こんなところで寝てたら凍死しますよ」  視界がぼんやりしていた私にも、懐中電灯を片手に持った人間の造形がはっきりとではないが見えた。また、その造形からどんな人物か大体察しがついた。 「ああ、つい考え事をしていたらねむってしまいました」 「いい年した大人がそれでは困りますよ。―それで貴方は何歳ぐらいの方なんですか? 」  聴取か。そりゃあ、こんな時間に公園で一人、寝ていたのだから当たり前か。 「40歳」  聞いてきた彼はメモを取っているようだ。 「なぜここで寝ていらしたのですか? 」  この質問に対して、ここが私の家だからと言ったら、一体どう思われるか。ここは偶々お酒で酔ってしまったことにしよう。 「なるほど、わかりました。では、気を付けてお帰りください」  
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