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鬼の章
明け方。
空が赤から青へ色合いを変えつつある、山中。
彼らは一際赤く染まる故郷を見ていた。 優しい風が木々を揺らし彼らを撫でていく。
その風を子供達は寒がり、母親達は子供を抱き寄せた。
「……私達…これから…どうなるの」
一人の母親が口を開く。
彼らは故郷を追われ逃げてきた一団だった。
野蛮なけだもの達に故郷を焼かれ、ただひたすら逃げやっと息をついた所だった。
男達の多くはけだもの達と闘い殺されてしまった。
この山にはいくつかの集落があったが、けだもの達は全てを飲み込み焼き尽くした。
彼らは戦に負け、帰る所と行く所を失ってその場に座り込んだ。
「……奴らの中に紛れるぞ」
村の長でもあり、戦士達の長でもある立派な体躯をした男が言った。
戦士達に衝撃が走る。
「大将。奴らに頭を下げて生きていくのか?…出来るのか?」細身の男が言う。「いや、奴らは俺達を片端から殺している。
頭を下げても生き延びられんな」
「だったら、最後まで…」巨体の男が言い募る。
「まあ聞け。…お前らの霊核…俺に預けろ」
「………我らを、けだものにするのか?大将。」立派な鎧を身に着けた若い男が聞いた。
「ああ、…侍や陰陽師共の力。完敗だ……今はな。そこでよ、一度身を隠し奴らが消えるのを待つ」
「そう上手い事いくかよ?」片目のつぶれた男が疑念を口にする。
「この策は上手い事いくぜ?きっとな。金食い虫の侍連中なんぞ敵の俺達が居なくなりゃ 途端に用済みだろうよ」
大将と呼ばれた戦士達の長。
鬼族の長。鬼神と称えられる鬼。
大江山の酒呑童子はそう笑った。
「奴らに…人間によ、姿を変えて紛れ血を伝えておけ……頃合いを見て、お前らの子孫に霊核を埋め込んでやる」
「………」
立派な角を額に構えた若い男が酒呑童子を睨みつける。
「どうした?不満そうだな。……星熊?」
星熊と呼ばれた男は一言だけ大将に文句を付けた。
「…俺を宿せる様な器を持った男が奴らの中にいるか」
酒呑は笑った。
「お前の子孫に宿す、何とかなるだろうよ」
―平安末期―
人間達と鬼族との闘いが各地で勃発。 その中でも最強最悪と恐れられた大江山の酒呑童子。
彼が討たれたとされるその後、鬼達は急速に姿を消していった。
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