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僕はその瞬間に迷うことなく走り出した。
僕から視線が外れたことで、少なくともワンテンポついてくる奴らの動きが鈍くなる。
「ぎゃああぁぁぁぁぁ!」
「いや、やめ――!!」
腕輪に気を取られて蜘蛛への対応を怠ったものから喰われていく。
それでも生き残った者たちが走り出す。今の騒動で連携が取れず、完全に四方八方に逃げ出す。
――それでいい。この状況で固まって動くのは愚の骨頂だ。
これで少しは多くの人が生き残れると安堵した時、視界の端で何かが光った。
「なんだ?」
すぐに天井以外の光源を確認するために僕は視線を横へと移す。
今にも子蜘蛛に食われそうになっていた者の腕輪が光を放つ。
その腕輪が急激にその形を変え、光沢を持った金色の剣となった。
「……なんだあれ?」
突如現れた金色の剣を握る少年は、必死な表情でそれを振り回した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
剣が振り下ろされた途端、接近していた数十体の子蜘蛛の身体が剣から生じた衝撃波で粉々に砕けていく。
「スゲェ……」
「あれさえあれば……!」
全員が腕輪を見た。
「待て! 止まるな!」
発動条件が分からない内に蜘蛛から意識を外す者が出てきた。そして僕の叫びも聞かずに必死に腕輪を叩く者がすぐ近くにいた。
「出ろよ、何でもいいから出てくれ! おい!!」
そいつに向かって、厄介なことに親蜘蛛が迫っていた。
「くっそっ!!」
僕はその場から走り出して逃げる。
「ひっ、や、やめ――あがげっ?!!」
背後から聞こえて来た短い断末魔に身の毛がよだった。今振り返れば、トラウマ確実の光景がそこにあると思うだけで背筋がゾッとする悪寒がした。
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