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その言葉が定かか、眼の前の光景が本当に現実なのか、それを確かめる前に思考が止まる。
「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
誰かの悲鳴を皮切りに、その場にいた全員が走り出す。
その動きに反応してか、巨大な蜘蛛の目が不気味なことに赤く爛々と輝き始めた。
「――ギャボッ!!」
歩き出した蜘蛛
その太い杭のような脚で腕を千切られた少年が腹を貫かれた。
アレは死んだな。
どこかで冷静にそう判断している自分がいた。
こんなときでも冷めた思考をしている自分って、人としてどうなのだろうか?
そんなことを考えつつ、僕はすぐには動かず、蜘蛛がどう動くのかをよく観察した。
――ギチギチギチッ
関節の甲殻を擦り合わせながら、蜘蛛が方向転換した。明らかに人がたくさん集まっている方向だった。
僕はすぐに蜘蛛の背後に回るように動いた。ここなら複眼の蜘蛛でも死角のはずだ。
――ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!
まるで重機のエンジン音の様な低く腹の底まで響く様な雄叫び(?)をあげる蜘蛛が、狙いを定めた方向へと走り出す。
速い。
巨大な図体に似合わず、自動車に引けを取らない速度で蜘蛛は突進していった。
僕は後ろからその蜘蛛の様子を観察し、この状況でどう動くべきなのか考える。
「はぁ……はぁ……」
思考は冷静なのだが、それでもこの異常な事態の緊張感で呼吸が荒くなっている。
蜘蛛はよしとして、まずは周囲の状況だ。
脱出口があるのならそれに越したことは無いが、この天井以外は全部黒で、遠近感も掴めない場所だと見つけるにはかなり時間が掛かりそうだ。
「くっそッ! あんなのどうやって倒せってんだよッ!!」
僕と同じように大人数を囮にして蜘蛛の死角に逃げ込んだ誰かがそう悪態をついた。
……倒す? あれを?
……そう言えば確かに天の声は
(死ぬ前にパラメーター、スキル、ウェポン、エレメントを発動させて撃退してください)
――と言っていた。
つまり、この場にいる僕たちにはあの蜘蛛と戦うためのカードが与えられているということになる。
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