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折角だからはっきりと言おう。僕にはその過去の記憶がない。故に自分が誰かもわからないし、自分を認識しようにも出来ない。
僕は、気付くとのっぺらぼうになっていた。
しかしまあ、不思議というかご都合主義というか、物は見えるし音は聞こえるし臭いはわかるし食べたり飲んだりも出来る。
という訳で日常生活に困ることはないのであるが、自分が誰だか顔を含めてわからないというのはなかなか困る。
どうやら、僕がのっぺらぼうになったのはぬらりひょんが僕の許に顕れた直後らしい。僕の中に今はないぬらりひょんに関する記憶がなければ彼はこうして存在していないし、苦悩することもなかったのだからこれは疑いようがない。
つまり、だ。このぬらりひょんこそが顔のあった頃の僕の最後の遺産。失った過去を繋ぎ止める一本の糸。
そういうことで、このぬらりひょんを邪険にすることは出来ない。愚痴を聞いてやりつつ、僕が何者なのかを留めておかなければ。なので今は若干不本意であるが「相棒」と呼ぶことにしよう。
さて、僕がぬらりひょんと出会い――つまりのっぺらぼうになってしまっていた場所は、どうやら学校の教室の中だったようだ。
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