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射るような視線で僕を見る。
「申し訳ないけど、何も覚えていないよ」
「なんだと! あたしにあんなことしておきながら忘れたっていうのかよっ」
「うん。何があったか知らないけれど、本当に何も覚えていないんだ」
「ねえいっちゃん、あんなことってなあに?」
訊かれていっちゃんは顔を真っ赤にする。ああ、僕は相当酷いことをしたようだ。省みることは出来ないけど形だけは反省しておこう。
「に、にーこは知らなくていいんだよ」
「それで、知っていることを話してくれないかな?」
訊くと、いっちゃんは難しい顔をする。
「つってもなー、あたしら先輩のこと何にも知らないんだもん」
「知らないって、せめて名前は?」
「知りません」
にーこと呼ばれていた子が清々しいまでにきっぱりと言い放つ。
「知らないって……」
「本当に何も知らないんだよ。何も教えてくれなかったし、自分のことは『先輩』って呼べの一点張りだったし」
僕は一体何者だったんだ。いや、二重の意味で。
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