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曹昂の脳裏に、意識を失う前の景色が蘇る。
こちらを振り返る父の顔、矢に射られ落馬する戦友の姿、燃え盛る城を背に剣を振りかざす敵兵。
自分の体を刺し貫かれる感覚を思い出したところで、曹昂は記憶を手繰るのをやめた。
再び体のあちこちが痛みはじめたためである。
曹昂が高揚した気を鎮めようとしていると、おもむろに部屋の扉が開かれ、一人の少女が現れた。
「あっ。お目覚めになったんですね!」
曹昂が起きていることに気づいた少女は、ほっとした表情を浮かべながら曹昂へと近寄った。
彼女は抱えていた桶を置くと、先ほどまで曹昂の額に乗っていた布を拾い上げた。
「すっかりぬるくなっちゃってる……新しい布と取り替えますね」
桶に満たされた水で布を濡らす少女をぼんやりと眺めていた曹昂は、はっと我に返り少女に尋ねる。
「貴女が私を助けてくれたのか?」
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