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曹昂の問いに、少女は首を振った。
「いえ、わたしは看病を任されただけです。えっと……」
困り顔でちらちらと曹昂を見る少女。
その視線の意図を理解するのに、曹昂は数瞬を要した。
「失礼した。私は曹昂、字を子脩という」
「あ、すみません! 無理に名乗らせてしまって……」
「いや、名も名乗らずにいきなり質問した私が悪い。気にしないでくれ」
少女はもう一度「すみません」と謝り、曹昂に説明する。
「怪我をしていた曹昂さんを見つけたのは、兄様……北郷一刀という方です。ここまで曹昂さんを運んだのは別の将軍様ですけど」
「ほんごうかずと……?」
曹昂にとって、聞き慣れない響きの名前だった。
曹操軍にも張繍軍にも、そんな名前の将軍はいなかったはずである。
「そういえば、わたしの名前、まだ言ってませんでしたね」
曹昂の混乱に拍車をかけるように、少女の口から思いもよらない名前が飛び出してきた。
「わたしは典韋です。今は、曹操様の親衛隊隊長を務めています」
◇ ◇ ◇
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