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何とも怪しげな異名だと感じた曹昂だが、即座に考えを改めた。
(……いや、命の恩人の素性を疑うのは筋違いか。彼が何者であれ、私を救ってくれたというのは間違いないだろう)
曹昂の目に映る北郷は誠実で素直な青年といった印象であり、初対面の相手に不信感を与えるような嘘をつく人物には見えなかった。
脳内に山積する疑問のうち、北郷に関する項目を保留とした曹昂は、ひとまず自分が置かれている現状を確認することにした。
「北郷殿。他にもいくつか尋ねたいことがあるのだが、よろしいか?」
「俺に答えられることなら何でも答えますよ」
「ありがたい。まずは、あの典韋と名乗る少女について聞いておきたい」
北郷も彼女のことを典韋と呼んでいるようだが、曹昂にはそれがどうしても納得いかなかった。
「私の記憶が正しければ、曹操軍の典韋といえば怪力の豪傑であり、れっきとした男性だったはずだが……」
「えっ!?」
驚愕の表情を浮かべて大声をあげる北郷。
一方で、過剰なほど大きな北郷の反応に曹昂も驚き、続く言葉を言いそびれてしまった。
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