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黙ったまま何かを思案し始めた北郷に、曹昂が声をかける。
「……北郷殿? どうなされた?」
「あ、いや、すみません。つい驚いちゃって」
たはは、と苦笑する北郷に違和感を覚えた曹昂は、重ねて尋ねた。
「今し方、貴殿が驚かれた理由を聞いても良いだろうか」
「え?」
「貴殿の驚き様、何か尋常ならざるものを感じた。ただ単に私の戯れ言に呆れた、というわけではなさそうだったのでな」
曹昂自身、北郷にとって寝耳に水の話を切り出したという自覚があった。
彼には、あの少女が名を偽っているようには見えなかったのである。
また、彼女が曹昂に対して偽名を使う必要があるとも考えにくい。
典韋という名の少女が存在しているということに関しては、もはや否定できまいと曹昂は判断していた。
しかし、曹昂がよく知る曹操軍の典韋とあの少女とでは、如何せん姿形が違いすぎるため、どうにも納得できずにいた。
曹昂は確認のつもりで北郷に問いかけたのだが、返ってきた反応は彼の予想とは異なるものだった。
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