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目の前の人間から唐突に「自分は違う時代から来た」と告白されて、それを当然であるかのように受け入れられる人間は少ないだろう。
そういった凡人の一人に過ぎない曹昂は、情報を入手するたびに混沌の度合いが増す己の現状に辟易していた。
しかし、北郷にそれを悟られては余計な心配をかけるかもしれないと考え、彼はしっかりとした口調で断言した。
「北郷殿の言うとおり、私には俄かに信じられない話ばかりだ。だが、私は貴殿が嘘を吐いているとは思わない」
最初に口で約束したように曹昂は、終始真剣な表情で語られた北郷の言葉を全て信じると決めた。
同時に曹昂自身の経歴を彼に伝えておくことも決意し、安堵の息を吐く北郷に提案する。
「貴殿が私にそうしたように、私も自分の身の上を北郷殿に明かしておこうと思うのだが、どうだろう?」
「わかりました。聞かせてもらいます」
頷く北郷に、曹昂は簡潔に出自を語った。
曹操という名の父を持ち、とある戦いの最中に重傷を負って意識を失い、北郷に助けられて今の自身がある。
そこまで語ると、曹昂の中にひとつの疑問が浮かび上がった。
「そういえば、北郷殿は傷を負った私を見つけてくれたと典韋殿から聞いている。そこに私以外の負傷者や戦死者はいなかったか?」
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