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曹昂の問いに、北郷は首を横に振った。
「曹昂さん以外に倒れている人はいませんでした。ひらけた場所でしたし、間違いないと思います」
「……そうか」
落胆する曹昂の脳裏には、曹安民をはじめとする、宛での戦いを共にした者たちの顔が浮かんでいた。
(生き延びたのは私だけ、か……。それにしても、周囲に誰もいなかったというのは妙だな)
曹昂が記憶している気絶寸前の景色は、言うまでもなく戦場である。
敵味方ともに多くの者たちが斬られていたことを、彼ははっきりと覚えていた。
そうであるにも関わらず、他の怪我人や死体がまったく見当たらないというのは辻褄が合わない。
考え込む曹昂を気遣ってか、北郷は笑顔を浮かべた。
「でも、良かったです。曹昂さんに会って、俺の話を聞いてもらえて、だいぶ気が楽になりました」
ほっとした様子でそう言う北郷を見て、曹昂も思考を前向きな方向へと切り替える。
「お互い様だな。私も北郷殿がいなければ、これほど落ち着いては……」
ふいに曹昂の意識が遠のき、彼の言葉が半ばで途切れた。
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